第2回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」受賞者決定

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株式会社クオン・K-BOOK振興会の共催(後援:韓国翻訳文学院)で行われた、第2回「日本語で読みたい韓国の本」翻訳コンクールには、国内外から総勢167名ものご応募をいただきました。
一次審査を通過した10名の作品をもとに、審査員(中沢けい、吉川凪、きむふな、古川綾子)による厳正な審査を行った結果、この度次の通り、各作品の最優秀賞者が決まりましたので発表致します。
(文中全て敬称略)

⇒ コンクールの詳細はコチラから
 
「고요한 사건」 最優秀賞 李聖和
【評】
自然な日本語に訳すために原文にある単語を省略もしくは追加したり、位置を変えたりすることは時に勇気を必要とするが、よく工夫して読みやすくリズミカルな訳文に仕上げている。

【受賞者より】
このたびは栄えある賞をいただきありがとうございます。
韓国語で作品を読んだときに浮かんだイメージや感じたことを、日本語で再構成し忠実に表現することを心掛けました。

韓国語と日本語は似ているとはいえ、だからこそ見落としがちな部分や細かいニュアンスの伝え方が難しい点も多く、翻訳の難しさを改めて実感しました。
まだまだ未熟ですが、今回の受賞を励みに、翻訳を通じて日本と韓国をつなぐ架け橋になれるよう一層努力したいと思います。
素晴らしい作品に出会えたこと、貴重な機会をいただいたことに心から感謝いたします。

 

「선릉 산책」 最優秀賞 藤田 麗子
【評】
日本語としてのリズムに特に優れている。
またこの作品の冒頭部分は特に難しく、多くの応募作において誤訳が見受けられたが、受賞作は最も正確で自然な文章に訳出していた。
 
なお、今回選出された受賞者二名は特に傑出していたため、審査において大きな困難はなかった。

【受賞者より】
このたびは素晴らしい賞をいただき、大変光栄です。韓国に住み始めたばかりのころ、都会の真ん中とは思えないほど自然豊かな宣陵に惹かれて、よく散歩に出かけていました。夏は青々とした芝に覆われ、冬になると真っ白な雪がこんもり積もる墳墓。巨大な石像、野鳥やリスたち。そんな光景を思い浮かべながら“僕”とハン・ドゥウンの物語を訳していきました。胸が痛くなるような場面もあるからこそ、全体の軽快でシュールな空気感を生かしたいと思いました。翻訳の難しさと自分の未熟さを痛感する瞬間もたくさんありましたが、この賞を励みに今後も頑張っていこうと思います。ありがとうございました!

 

*なお、惜しくも受賞には至りませんでしたが、次の方々も一次選考を通過されました。
ここに掲載をさせていただきます(五十音順)。
阿比留 直子、新井 陽子、安藤 万瑛、小林 由紀、関 美由紀、豊川 萌子、中尾 多香子、信太 光洋

 

【総評】
「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」も第2回となった。近年は韓国語から日本語に翻訳された本も多数になり、チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(斎藤真理子訳 筑摩書房)は10万部を超える読者を得たと聞く。そのほかにも日本で読者の支持を得ている韓国語の翻訳書籍は多い。同じ時代を生きる人間としての興味関心が韓国翻訳書籍へと日本の読者を増大させているのであろう。このような時代に翻訳コンクールを開催できたことはたいへんに意義深い。応募者も多く、韓国語と日本語の間をつなぐ仕事の質を高めることに意欲的な多くの人が存在することを知り、頼もしく思い、嬉しく感じた。

今回の対象作品チョン・ヨンジュン「선릉 산책」、ペク・スリン「고요한 사건」は、いずれもソウルの印象的な風景の中に今を生きる人を配置した短編小説だ。「선릉 산책」はタイトルにあるとおり漢江南側にある宣陵を描く。障害を持った少年を預かり宣陵を歩くことになった青年の当惑が、ユーモアを持って描かれる。「고요한 사건」は漢江の北側斜面の塩峠と呼ばれる町に引っ越してきた少女と、再開発前の貧しい街区に住む少年少女の友情の推移を描く短編小説だ。いずれもソウルという町の過去の時間を想起させる風景が作品の背景となり、作品の厚みを作り出している。

選考会では注のふりかたが話題になった。文学作品の場合、注のふりかたに翻訳者と編集者のセンスが現れる。分からない言葉に全て注をふればよいというものでもない。また韓国と日本は漢語を共有しているので、漢語の取り扱いにも注意を要する。同じ漢語を使っていても、ニュアンスが異なる場合もあれば、漢字という視覚的表現が効果的に使われている場合もあり注意を要する。選考委員どうしでこのようなことを話合うのも、また楽しみのひとつとなった選考会だった。
コンクール開催にあたって韓国文化院をはじめ、援助と御支持をいただいた皆さまに御礼を申し上げます。
(中沢けい)

 

授賞式は7月20日(土)に駐日韓国文化院ハンマダンホールにて開催いたします。
当日は講評をより具体的に、審査員によるトークセッション形式で行います。
また受賞者による邦訳2作品は、「韓国文学ショートショートシリーズ」として今年中に刊行予定です。どうぞご期待ください。