第1回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」受賞者決定

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株式会社クオン・K-BOOK振興会の共催(後援:韓国翻訳文学院)で行われた、第1回「日本語で読みたい韓国の本」翻訳コンクールには、国内外から総勢212名ものご応募をいただきました。
一次審査を通過した7名の作品をもとに、審査員(中沢けい、吉川凪、きむふな、温又柔)による厳正な審査を行った結果、この度次の通り受賞者が決まりましたので発表致します。
(文中全て敬称略。また、審査評は共通課題作「ショウコの微笑」へのコメントです)

⇒ コンクールの詳細はコチラから

 

 

最優秀賞 牧野 美加
【評】
・ところどころ手を入れすぎかと思われる個所もあったものの、全体的に作品への理解が感じられ、訳出上の工夫もなされた、こなれた訳文であった。(きむ ふな)
・文脈に応じた訳し分けなど随所で工夫されており、日本人読者が読んでわかりやすいようにという努力が感じられた。自然な文章だと思った。(吉川凪)
・とても読みやすく、内容をよく理解している。「オンマ」「ハラボジ」の使い方が心地よく、日本語で読む読者にとっていい意味での異国感も感じさせる作品だと感じた。(温又柔)

【受賞者より】
文芸翻訳は初めての挑戦でした。原文に忠実で、かつ日本語として読みやすい文章になるようバランスを取るのが難しかったですが、楽しみながら訳すことができました。収録作の7編はどれも人物の心理描写が素晴らしく、また韓国社会のさまざまな側面が描かれている作品も多く、韓国在住者として大いに共感できました。まさか賞をいただけるとは思ってもみませんでしたが、これを励みに精進していきたいと思います。ありがとうございました。

 

優秀賞 小林 由紀
【評】
・よく工夫された表現がたくさんありながら、直訳すぎる箇所、誤訳、誤字なども目に付いたのが惜しい。(吉川)
・訳文にごつごつしたところ、プラスの評価をしたい箇所・減点したい箇所それぞれあるものの、大きな破綻には至っていなかった。(きむ)

【受賞者より】
以前は私自身も韓国のことを近くて遠い国だと思っていましたが、韓国語の勉強を始め、韓国に暮らす人々の文化や価値観を学ぶ中で、懐かしさや愛おしさを感じる身近な国へと変わっていきました。
私と同じように感じる人が増えてくれるように、韓国語で書かれた素敵な作品を日本の方々にたくさん紹介していくことができければ幸いです。今回はその機会を与えて頂き、本当にありがとうございました。

 

優秀賞 横本 麻矢
【評】
・前半はとてもよく訳せており、読みやすかった。語順を入れ替えて訳出するなど工夫がみられたが、少しやりすぎの感もあった。(きむ)
・女性の会話、手紙文において、「~わ」などの語尾が多過ぎるような気がした。前半は問題が少なかったものの、後半に不自然な表現、日本で使われない漢字語などがあったのは残念だ。(吉川)
・登場人物の話し言葉が自然で、90年代の女子学生がまさに話しているような印象を受けた。まどろっこしい訳になりがちな箇所もとても上手に訳されていた。もしかすると時間が足りなかったのかもしれないが、ぜひ推敲しなおして最後まで読ませてほしいと感じるほど、訳文に惹かれた。(温)

【受賞者より】
このたびは、優秀賞という大変光栄な賞をいただき、感激で胸が一杯です。チェ・ウニョンさんの素晴らしい原作に出会えたこと、翻訳コンクールという機会に恵まれたこと、そして私の翻訳を評価してくださったことに、心より感謝いたします。
私にとって、この小説を訳していく作業は、とても楽しいものでした。原作の持つ雰囲気をできるだけ損なわず、それでいてぎこちない直訳文にならないよう心掛け、はじめから日本語で書かれたような、読みやすい文を目指しました。原作の魅力を翻訳版の読者の方にも伝えることができれば幸いです。本当にありがとうございました。

 

*なお、惜しくも受賞には至りませんでしたが、次の方々も一次選考を通過されました。
ここに掲載をさせていただきます(五十音順)。
加藤 みらん、福島 千尋、玉井 千恵、Y.M.


【総評】
今回、たくさんの方から応募をいただいたことがまずうれしい。それだけ韓国語学習者の広がりを感じることができた。とりわけ女性の応募が多かった。女性は、韓国との間にある政治的緊張、経済競争などよりも、言葉を通した隣国との繋がりの回路を開くことに熱心だと言っていいだろう。今回の選考では韓国文学の翻訳のおもしろさ、難しさを改めて感じた。実際に数々の文学作品を翻訳している吉川凪さん、きむ ふなさんの指摘は貴重だった。韓国語と日本語は語順が同じであり、漢語も共通して使用されているものも多く、外国語学習者にとっては、言葉に世界に入りやすく、が、それだけに文学作品の言葉が表現する微妙なニュアンス、多彩な意味の展開、豊饒な表現の冒険を翻訳するのは多くの困難な作業を伴うことにもなる。文学作品の言葉の表情については温又柔さんの丁寧な指摘は、選考にあたって大きな示唆を含むものだった。

言葉は時代とともに変わってゆく。小説の表現もまた時代とともに展開する。男言葉、女言葉の差異なども、小説の世界では定式化された表現があっても、時代の中でその表現はすでに失われていることも多い。翻訳の場合は作品が書かれた時代と、翻訳される現在の整合性をどうつけるのかは翻訳者のセンスが試されるところである。また、言語の味わいをどう残すのかも翻訳者のセンスによるところが大きい。韓国語の家族の呼び名、親しい友人への呼びかけなどは、単純に日本語へ置き換えてしまうと、豊かな感情を含んだ声が消えてしまうことがある。これらは選考会でも選考委員の間で話題となった。

今回、選ばれたお三方はそれらの事柄と向かい合い、挌闘し、そして翻訳者としての独自性を獲得した仕事である。お三方にお祝いを述べるとともに敬意を表したい。翻訳の仕事は日韓両国の文化に新しい地平を切り開くものであると今回の選考を通じて確信した。(中沢けい)

 

授賞式は7月21日に駐日韓国文化院ハンマダンホールにて開催いたします。
また受賞者による邦訳『ショウコの微笑』は、2018年12月に刊行予定です。
どうぞご期待ください。