2018年「文学で旅する韓国-済州編」ツアーに参加いただいた方から、『オルレ 道つなぐ』を読んだ感想を寄せてくださいました。
実際に、主人公であるソ・ミョンスクさんにもお会いした参加者ならでは思いが綴られています。
写真:西帰浦の海岸で参加者に熱く思いを語るソ・ミョンスクさん(手を広げている女性)
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ソ・ミョンスク著『オルレ 道をつなぐ』を読んだ。
一読して、2018年10月に行ったチェッコリの「文旅」ツアー済州の旅が蘇ってきた。私たちは西帰浦(ソギポ)のオルレコースを歩く予定で、それを創った彼女の話をまず聴いた。小柄で陽気でとても表情豊かな彼女だったが、まさかあんなに凄い話をされるとは思っていなかったのだ。その凄い話に、この本を通じて再度出会えたことが嬉しい。
彼女は、美しい済州の自然を味わってもらうにはオルレをどのように造ればよいか、と考えた経過を話してくれた。オルレを造る原則は、「機械に頼らず、手作業で行う・地元の天然素材を使う・道幅は1メートル以下とする」。ここまでは分かり易い話だ。しかし、そこに至るまでの経緯は、実は予想もできない凄いものだった(本書前半の内容。お話でもこのことが始めに語られた)。話全体の内容は、簡単にまとめれば、「歩くことが好きだった彼女が、壊された身体の健康を取り戻すために“歩こう”と思って、有名なスペインのサンティアゴを歩いたが、そこよりもっと色彩豊かだった済州を思い出して、済州に歩ける道を創った」のだということだ。しかし、その健康を害した原因が、実は民主化運動のために逮捕された獄中生活に端を発し、釈放後も左右が激しく対立する中でメディアの編集者として夜も昼もなく多忙を極めたことによるものだったというのだ。いったいどうしたら、美しいオルレと朴正煕~全斗煥の軍事政権下の民主化運動が関係するというのだろう。
これは小説でもなんでもない、彼女が生きてきた軌跡そのものだ。韓国現代史の真っただ中を生きてきた彼女と、そこで傷ついた彼女に対する、漢拏山を戴く済州の圧倒的な自然の力による癒し、とでもいうべきか。実は済州に戻った彼女を迎えた故郷の人々は、「監獄帰り」ということで彼女に厳しい視線を送り、よけいに彼女の心を蝕んだ。それを癒してくれたのは済州の自然であり、その後に到達したのがオルレだった。そして、オルレを造るという行為を通じて、それまで心を通わせることのできなかった兄弟と和解するばかりか彼らが大きな力になってくれたという、彼女と家族の物語も最後に登場する。翻訳も素晴らしい。本当に内容豊富な本書を読み、あの旅での感動を改めて味わわせて貰った。
2020.9.16 円谷弥生