チョン・セランさんトークイベント@ブックカフェ「チェッコリ」

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○ 日時  :  2015年7月21日(火)開催

小説『アンダー、サンダー、テンダー』の著者チョン・セランさんのトークイベントが、7月21日、東京・神保町のブックカフェ「チェッコリ」で開かれました。コーヒーやゆず茶などを手にした参加者がカジュアルなTシャツ姿のチョン・セランさんを囲み、和やかな雰囲気の中でイベントがスタートしました。

司会と通訳を務めたのは、『アンダー、サンダー、テンダー』を翻訳した吉川凪さん。日本に紹介された韓国作家のなかで一番若いチョン・セランさんの作品を、「今までも韓国の青春小説はあったかもしれませんが、最も若い世代のことを書いた小説です」と紹介しました。

『アンダー、サンダー、テンダー』の舞台は、1999年。北朝鮮との境界近くの町韓国・坡州に育ち、毎日同じバスに乗って高校に通っていた6人の仲間達の成長物語で、大人になってから映画美術という少し変わった職業に携わる「私」が主人公です。

「映画美術の仕事をしていた友だちをモデルにしました。主人公は、映画ごとに雇われて働くので、収入が安定していません。友だちもあまりにも大変なので、やめてしまったのです」と明かすチョン・セランさん。ファッション感覚に優れたソンイやピュアな性格のスミ、ぽっちゃり体型のチャンギョムなど個性豊かな登場人物たちも、30歳になるまで様々な仕事に転職していきます。「職業に関心があり、いろいろな職種を登場させる作家だとよく言われます。自分の経験は少ないので、友だちの経験を借りています」

 『アンダー、サンダー、テンダー』を書いたきっかけについては、「京畿道(キョンギド)の一山(イルサン)というニュータウンで育ち、大学はソウルで通ったのですが、就職したのは坡州でした。一山でニュータウンができる過程を観察していたのですが、坡州でも同じように都市が作られていくのを目の当たりにしました。今の私たちは、新しい都市が作られていくのを実際に経験する、そういう世代だと思ったのです」。 自身の高校時代を物語に反映したのかという質問には「自分の経験を30~40%ぐらい入れると事実感のある作品になるような気がします。ずっと座って頭の中で考えるだけでなく、自分が書いていた日記や大事にしていたおもちゃ、友だちから聞いた話など、いろいろなものを盛り込んで、ヨーグルトのように発酵させるのです」と答えました。また、「学生時代を回想するような大人の読者を想定して書いたのですが、意外と中高生の読書感想文の課題作になったりして、もっと若い人も読むのだな、と思いました」とも。

韓国語の原題は、『이만큼 가까이(これくらい近くに)」。チョン・セランさん自身は『アンダー、サンダー、テンダー』というタイトルを希望していたけれど、韓国の出版社の経営者が「ハングルで二言ぐらいのほうが売れる」というジンクスを信じていて、50ぐらいあったタイトル候補から選んだものなのだとか。日本語版で願い通りの書名が実現し、とてもうれしそうでした。

イベントの前日には、国際交流基金、クオン、韓国国際交流財団共催の「日韓若手文化人対話」に出演し、早稲田大学で作家の朝井リョウさんと語りあいました。ステージの上で多くの観客を前に緊張したそうですが、チェッコリでのイベントでは読者と近い場所で、少しはにかんだ表情を浮かべながらも、とてもリラックスした様子で話していました。
<詳しくはこちら  https://www.facebook.com/culturetalk>

昨年6月のソウルでの対談以来1年ぶりに再会した朝井リョウさんについては、「成長のスピードが速く、以前に比べてしっかりした印象を受けました。仕事もたくさんしていらっしゃるし、いい刺激を受けましたね。作家同士は顔を見ると、締め切りが近いのかな、しんどいのかな、とわかるような気がするんです」と語ったチョン・セランさん。ご自身も、現在50人の主人公が登場する新作の執筆に追われているそうです。
「ゆっくり書いていたのですが、日本に来る前に、編集者から『10月までに仕上げてほしい』と言われたので、今日が最後のパーティーのような気がします。まだ、50人のうち1人だけしか書きあげていないので」と、ちょっぴり苦笑い。

日本の文学も好きで、お気に入りは森見登美彦さんの「夜も短し歩けよ乙女」。吉本ばななや山田詠美などを多く読んできたと教えてくれました。
約1時間のトークの後は、ひとりひとりと会話しながらのサイン会。帰り際には、チェッコリの出口まで来て、名残惜しそうに手を振りながら階段を降りていくゲストを笑顔で見送っていました。