第13回クオン「読書会」レポート
○ 日 時 : 2015年11月27日(金)午後7時~
○ 場 所 : チェッコリ
○ 参 加 者 : 男女含め40名
○ 通 訳 : ヨン・ジミ
『亡き王女のためのパヴァーヌ』『カステラ』著者パク・ミンギュさんを囲んで
来日前より読者からの期待度が高かった、パク・ミンギュさんの作品。
独特な感性のメガネをかけて登場したパク・ミンギュさんは、恥ずかしそうにうつむきながらも淡々とお話し下さいました。
はじめに小説を書き始めたきっかけを聞くと、自分のことを表現しようと思って書き始めたが、小説の書き方を学んだことがなく、誰かに聞くことができない性質なので、一人で独自の方式を作り、それが美しく感じたそうです。
父親の趣味が絵画を描くことに影響を受けて、自分も絵や美術品が大好きだそうで、その影響もあり、詩は芸術的に言語で表現できるので好きなったそうです。小説を書きながらも実は詩をこっそり書いているとのことです。
短編集『カステラ』を発行したクレインの文弘樹社長が自分の冷蔵庫にあった、好物のカステラの写真がそのままカバーになったエピソードが紹介されるとパクさんより「好きです、いいですね」とサングラスの奥から笑顔がこぼれました。
『亡き王女ためのパヴァーヌ』はWEB小説から掲載がスタートし、結末が当初なかったのでラジオのリクエスト曲に応えるように、読者の反応を気にしながら慎重に書いたそうです。
「『カステラ』は本当に書きたい作品だったが、『亡き王女―』はネットで掲載をしていたので、読者の反応に応えながらも負担には感じたことはなく、読者へのお返事のボリュームが、小説の原稿量よりも多い時期がありました。私ほど楽天的な人間はいないですね」と会場を沸かせました。
小説『亡き王女のためのパヴァーヌ』が生まれたきっかけは、長編の恋愛小説を書こうとしたら、奥様が「新婚の時に、私がブスな女だったら愛してくれたの?」という問いにうまく応えられず、その時に返事できなかった答えを『亡き王女のためのパヴァーヌ』に託したことを披露してくださいました。
左より、司会の世木さん、パク・ミンギュさん、通訳ヨン・ジミさん、訳者斎藤さん、訳者吉原さん
さらに出身地蔚山にパクさんの作品の原点があって、そこは港町であり工場団地で女性の人権がない環境だったようです。実際は物語にでてくるようなブスな人にあったことがないようですが、当時の女性が小説に投影されているとのことです。
そして、間違いなく男性は加害者の立場で、それに対し女性は距離のある遠い存在だったということを作品のところどころで表現されている点に関しては、「常に弱者の立場で、抑圧された人のために小説を書いていきたい。」という言葉にパクさんの弱者への優しいまなざしが見えたような気がしました。
会場には評論家の都甲幸治さんが来店されていて、「韓国の文学は読んだことがなかったですが、村上春樹の『ノルウェイの森』が現代風になった感想を持ちました。なぜ早く読まなかったのだろうかと…」と感想を述べていただきました。
また、パクさんの話の調子があがってきたときに、ある知り合いのエピソードを披露してくださいました。
それは知り合いが日本で住んでいたときに、娘がピアノを習っていて、あるときご近所さんから「娘さんはピアノがお上手ですね」と言われ、そのときは嬉しかったが、一年後になって、ピアノの音がうるさいという事実を知らされそうなので、聞いてくださるお客様に「力を入れず気楽に聞いてほしい」とお願いをしていたところにも、パクさんのお客様に対する配慮が感じられました。
蔚山が日本に近く、日本のテレビ番組が映っていて、石ノ森 章太郎さんの『仮面ライダー』が特に記憶に残っている、今の自分の想像力の源泉は『仮面ライダー』。石ノ森 章太郎さんを尊敬しているし、感謝していると、しみじみお話しくださいました。
またサングラスをかけた写真が多いのは韓国の社会は個人が保護されにくいので、、自分の正体をだれにも知られずに生きることが自分のスタンスだと語りました。でも、外出していない普段のときは全くサングラスをかけていないそうです。
最後に『亡き王女のためのパヴァーヌ』最終ページを自ら韓国語で朗読してくださいました。
朗読をするのはあまり慣れていない様子でしたが、最後の一文『愛しているよ』が何か特別な言葉に聞こえたのは、私だけではないような気がしました。
文責:文