『完全版 土地』の完訳プロジェクトがいよいよ今秋完結します。そこで編集の藤井久子さんに、全20巻の編集を手掛けた今の想いをお伺いしました。
完訳プロジェクトがスタートする時、この壮大な物語の仕事を最後まで一定の意欲を持って続けられるだろうかと不安でした。しかし1巻から多彩な登場人物が織りなす平沙里の人間模様に惹きつけられ、次第に、次の巻の翻訳原稿を受け取るのが待ち遠しくなりました。おそらく、この作品の発表当時に韓国の読者たちも、続編を同じように待ち侘びたのだろうと思います。
物語が進むにつれ、平沙里だけでなく、舞台も人間関係も広がっていき、登場人物が複雑に絡み合う展開に圧倒されました。朴景利さんは執筆当初にこのような膨大な登場人物と物語の展開を綿密に組み立てていらしたのか、それとも物語が進むにつれて、物語そのものがこのような展開を求めていったのか、作家のお話を聞く機会がもうないことがとても残念です。
読み進めながら感じたことは、作家の歴史を見つめる眼差しが冷静で容赦ないことです。日帝に批判的であるのは当然のこととして、朝鮮の歴史や出来事に対しても同様の視線を注いでいると思いました。これは人物に対してもみられるもので、趙俊九、頭洙などは徹底的に醜い人間として描かれています。
こうしたことは、朴景利さんの人間と生きることに対する厳しさを表していると思います。その厳しさを自らにも向けながら、25年にわたりこの物語を書き綴ることには、多くの苦しみもあったのではないかと推察します。その困難をやり遂げる強い意志を尊敬せずにいられません
そうした厳しさと裏腹に、自然の情景の描写の美しさに、晩年を原州郊外の田園地帯で暮らし、環境問題に深い関心を寄せた朴景利さんの心を見出すこともできます。
この作品を通して、朝鮮近代史、朝鮮の文化などについて多くを学ぶことができました。