トークイベント「おいしい韓国」福岡編

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○ 日  時  :  2015年10月30日(金)
○ 場  所  :  福岡 アクロス福岡 円形ホール
○ 出 演 者  :  韓国の詩人ホ・ヒョンマンさん、在日の歌人 キム・英子・ヨンジャさん、日本の小説家 中沢けいさん

「おいしい韓国」福岡編

10月30日、詩人ホ・ヒョンマンさんと歌人キム・英子・ヨンジャさんが作家・中沢けいさんのナビゲートで食と文学を語る「おいしい韓国」が開かれました。クオンの新刊「飲食のくにではビビムパプが民主主義だ-おいしい詩を添えて」の出版に合わせたイベント。トークに朗読を交え、韓国の豊かな食文化への讃歌ともいえる詩世界にひたりました。

詩人ホ・ヒョンマンさんは韓国全羅南道順天生まれ。全羅南道は、韓国随一の食所と言われ、南に内海を抱いた順天は海産物の味処として知られます。「おいしい韓国」に寄せた「ナクチポックム(テナガダコ炒め)」を熱々と朗読してくれました。

ホ・ヒョンマン

〈古来 弱った牛に
 タコ一匹食べさせれば それだけでむっくり起き上がると言われてきた
(中略)吸盤で貝をとらえて食うほど強靱だが
 性質はいたって純情
 毒気がなく
 味は甘やか…〉

テナガダコは韓国西南海岸で捕れる、足が長い小ぶりなタコ。ぶつ切りにして唐辛子粉で真っ赤に炒め、焼酎とともに食すと「これぞ旨さの極み」とか。滋養強壮にも重宝される、韓国のソウルフードのひとつだそうです。

韓国の味を象徴するひとつが、まさにいま火から下ろされたばかりの、くつくつ煮えたチゲ。中沢けいさんは、「友人の作家に連れられて食べた、熱々のキムチチゲと白ごはんの朝食が忘れられない」そうです。

福岡県飯塚市在住の歌人で在日2世のキム・英子・ヨンジャさんは、子どものころの食卓を「テンジャンチゲとキムチ」と紹介。出産のときは「1日3食ワカメスープ」だった思い出を語り、会場を湧かせました。「幼いころは韓国の食べ物が日常でしたが、大人になると行事のときの特別な食べ物になった」とも話し、チェサ(祭祀、法事)の日をうたった短歌を数編、紹介してくれました。

〈特別な気分のスイッチ入るべし漆の卓を座敷に据えれば〉

〈臙脂色の漆の卓に供え物運んで運ぶ母につきゆく〉

〈お豆腐に浅蜊に烏賊の味しみて祭祀には小さき海を供える〉

〈供え物片手で置けば母の声飛んでいつしか添える左手〉

〈茹で鶏に蒸し餅チヂミ煎ナムル祭祀の卓の上故郷をつくる〉

(祭祀床-在日の百年)より

キム・エイコ

続けて、ホ・ヒョンマンさんが長編詩「空の恋人たち」を朗読。1980年の光州事件の犠牲者を悼み、自然の彼方に「君」の面影を探した一遍です。韓国を代表する叙情詩人、ホ・ヒョンマンさんならではの、やさしく澄んだ詩世界です。

〈夏の日差しに胸の痛む
 山また山を越え
 川という川を越え
 そして靴が
 きれいな足首を包む路地ごとに
 私は呼ぶ
 君の名を。

 ちぎれて飛ぶ森の上の雲
 そして ツタのからまる建物と
 輝く木の葉と木の葉 ポプラの梢にも.私は呼ぶ君の名を…〉

これに呼応するように、キム・英子・ヨンジャさんは、在日として故郷を探し、焦がれる想いを「故郷でありたし」と短歌に込め、数編を朗読しました。

〈いなり寿司 巻き寿司 近所に教え請い オモニ作りき いなり寿司〉

〈連行の歴史は知らず運動会に炭坑節を歌い踊りき〉

〈故郷(ふるさと)と思える場所のまだなくて空一杯にうろこ雲です〉

〈せめてこの故郷(こひゃん)でありたし 自由の身なれどもこの飯塚を動かず〉

 

中沢けい
最後に、中沢さんが「声に出して詩や歌を詠むのはとてもすてきなこと」と会場に呼びかけ、新刊「飲食の国ではビビンパプが民主主義だ」から「ビビムパプ」(オ・セヨンさん)の詩に声を合わせました。

〈飲食(おんじき)のくにでは ビビムパプが民主国家だ
 豆もやしナムルにほうれん草 
 にんじん きのこ ワラビにトラジ
 牛肉 鶏卵まで まったくの平等。
 肉類の上に野菜なく
 野菜の上に肉類のないこの食材
 このくにでは みな飯の権利を尊重する。…〉

(文・写真 平原奈央子)