第2回クオン読書クラブ「シン・ギョンスクさんを語る」レポ

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1月にクオンから刊行した『月に聞かせたい話』の著者であり、1985年のデビュー以来、韓国の文壇の第一線で活躍し続けているシン・ギョンスクさん。
今回の「クオン読書クラブ」は、個人的にもシン・ギョンスクさんと親交が深く、今秋刊行予定の短編集『オルガンのあった場所(仮題)』の編者・訳者でもあるきむ ふなさんをお招きしての開催となりました。

『月に聞かせたい話』刊行までの経緯
最初に、『月に聞かせたい話』を刊行するに至った経緯をクオンのキムがお話ししました。
シン・ギョンスクさんはソウル芸術大学の先輩であり、韓国でも大作家として知られ、自分の手の届かない所にいる存在であったものの、彼女の作品をクオンで刊行したいという気持ちがあったといいます。
「シン・ギョンスクさんは感受性豊かな内面や深い女性の気持ちを書く作家。でもそうじゃないところもある。他の出版社が出さないような、そういうところを私は見せたい、という気持ちが強かった」(キム)。
作品を翻訳した村山俊夫さんとのつながりもあって刊行が決まりましたが、日本でショートショートが流行っている様子を見て、この時機の刊行になったといいます。

『月に聞かせたい話』の感想として読者の皆さんからは、「クスッと笑ったりユーモアがあったりしたと思いますが、その中でも文の途中や読み終わった後に、何か考えさせられる時間が必ずあるのがシン・ギョンスクさんらしくてよかったです」というコメントなどが寄せられました。

翻訳者きむ ふなさんが語る、シン・ギョンスクさん
次いできむ ふなさんが、シン・ギョンスクさんとの出会いのエピソードを披露しました。
お二人の出会いは1995年、島根で開かれた第3回日韓文学シンポジウム。きむ ふなさんは島根県庁の国際交流員として、シン・ギョンスクさんは韓国側の参加者で一番若い作家として参加したそうです。
その時お二人はあまり話さなかったそうですが、同い年(学年はシン・ギョンスクさんが1つ上)ということもあり、後から少しずつ話すようになったといいます。「彼女にしてみれば、初めて行った外国の地方都市に、自分と同じ年齢の人が1人で来て仕事をしているということが新鮮だったみたい」と明かすきむ ふなさん。その後、シン・ギョンスクさんと津島佑子さんの共著『山のある家 井戸のある家  東京ソウル往復書簡』の刊行を機に、連絡を取るようになったと話しました。

作品を通じて見える「韓国」と「作家 シン・ギョンスク」
『母をお願い』(2011年刊行)のように、シン・ギョンスクさんの作品が早い段階から日本で紹介されてきたことについて、出版社の立場からキムは、日本の編集者の「韓国が丸々見える作品を」という要望に適ったのが、当時は『母をお願い』や『離れ部屋』だったのではないかという見解を述べました。
『母をお願い』は事前アンケートでも一番人気の作品で、「お母さんを大事にする国だというのは聞いていましたが、お母さんのことを子供がこういう風に思っているんだという親子の関係が『韓国が丸々見える』という一部分なのかなと思いました」といった感想が寄せられました。

きむ ふなさんがシン・ギョンスクさんの作品の中でぜひ読んでほしいと挙げたのが『離れ部屋』。「1980年代の韓国を、地方から都会に出てきた10代の少女の目線でとても丁寧に書いていて、ある評論家は『一番美しい労働小説』と評する人もいる」(きむ ふなさん)。

韓国の文壇におけるシン・ギョンスクさんの立ち位置
男性作家中心の時代が続いたのち、90年代になると女性作家の時代が訪れ、その中心的な役割を果たしたのがシン・ギョンスクさんでした。
それまでの韓国文学では社会や歴史といった大きな物語が中心だったのに対し、シン・ギョンスクさんの作品によって、子ども時代の物語や日常の違和感、繊細な思い出や別れなども文学のテーマに結びつけられるようになりました。

また、2015年の盗作疑惑についても話が及びました。「彼女の繊細な文体を文学評論家たちがものすごく高く評価していた。その意味で“盗作への疑惑”だけでなく、文壇に対する不満を持つ一定の層から叩かれた。その余波が大きかった」(キム)。
6年ぶりに新作が発表され、「生まれ変わって、ワンランク上の文体で来るのか本当に期待している」、「シン・ギョンスクさんの功績は本当に大きいけれど、作家は作品で物を言わなければいけない」(キム)。

準備中の短編集について
現在クオンでは、シン・ギョンスクさんの短編集の刊行を準備しています。収録作は翻訳を担当したきむ ふなさんが著者と相談し、3つの短編集から選んだ7作です。
そのうち2作は書簡形式の作品だということにも触れつつ、シン・ギョンスクさんの小説は“書いたけれど出しそびれてしまった長い手紙”のようなものではないか――受け手にも読んでほしいだけでなく自分に向けても書いている手紙―-というお話もきむ ふなさんからありました。

参加された方の中には、今回の読書クラブに合わせてシン・ギョンスクさんの作品を初めて読んだという方も多かったのですが、「他の作品も読まなくちゃなといい刺激になりました」という感想もいただき、第2回読書クラブは終了となりました。