11月9日 パク・ソンウォン×中村文則 トークショーレポート

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11月9日 パク・ソンウォン×中村文則 トークショーレポート

○ 会場:ジュンク堂池袋本店

○ 来場者数:56名

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 2012年11月9日(金)、ジュンク堂書店・池袋本店にて、『都市は何によってできているのか』の刊行記念のトークショーが開催された。

若者から熱い支持を受けている作家・中村文則氏との対談とあり、事前申し込みでも多数の御応募をもらい、満員御礼となった。


本番前は二人で一服

パク・ソンウォン氏は今度で3回目の来日。本番当日に来日した同氏は、成田空港よりホテル経由で池袋へ。来る間に「うまい蕎麦をたべて来ました」と上機嫌。ジュンク堂の控え室で中村氏と合流し、簡単な打ち合わせを終わるな否や、二人仲良く4階のバルコニーで一服。

両氏とも片言の英語とボディランゲージの会話だが、なんの違和感もなく会話が成立している様子。本番までの待機時間は、中村氏との昔話などで面白い話がたくさん出て、楽屋は大盛り上がりだった。

トークはファンも気になる、「二人のなれそめ」からスタート。

 今から4年前の2008年、韓国で行われた「世界青年作家大会」にて、中村文則氏は唯一日本人作家として参加した。パーティーでは周りのヨーロッパ人と話がうまくできず、しどろもどろのところにパク氏から声をかけられたという。

パク氏の記憶だと「中村さん、すごく写真写りがいいですね」と話しかけたとか。

ダンスパーティーでは各国の代表的な歌謡曲が流れ、日本の曲の出番では近藤真彦の『ギンギラギンにさりげなく』で盛り上がり、五輪真弓の『恋人よ』にあわせて二人でチークダンス。そしてこのコンベンションが終了するころには周りから“馬鹿兄弟”ではないのかと呼ばれるくらい打ち解けて、バーで朝まで語り明かした楽しい思い出を披露した。

「酔っ払えば酔うほど不思議なことに会話が通じるんですよね」

それ以来1年に一度、中村氏の本が韓国で発売されるたびに行き来をする仲になる。

「黒いストッキング」発言で韓国衝撃デビュー!?

 パク氏から見た中村氏の第一印象は、「芥川賞受賞作『土の中の子供』を会う前に読んでいて、中村氏が小説にでてくる子供にそっくりだと思った。僕も憂鬱な性格の部分もあるから、中村氏と話が合うのではないか」と思ったそう。

中村氏は韓国訪問の際に「パクさんの授業にゲスト講演をしに行ったら、パクさんがスーツでびしっと決まっていて“教授さん”だったのでびっくりしました」

中村氏が女子生徒に『好きな女性のタイプは?』ときかれ、「『黒ストッキングの似合う女性です』と答えたら、ギャーと驚かれました(笑)」

韓国では若い読者に多く触れあった中村氏。質問ががんがんくるのでびっくりしたそう。

マスコミの取材を受けたときは、カメラ撮影時にメイク担当の人が、中村氏の目の下のクマを化粧で隠そうとした。「韓国の人は見た目を気にするのだろうか」と実感。

そこでパク氏は「韓国で僕が人気あるのは、この顔のおかげ」と冗談をとばした。

原稿のファイルを持参、細かく相手を分析。

 事前に準備した原稿ファイルを見ながら説明をする中村氏は、パク氏の新作『都市は何によってできているのか』についてこう解説した。

「『孤立すればするほど、人間よりも動物のほうがうまく生きている』との表現とか、人間の体を比ゆにして表現しているのが、喪失感の書き方がうまいとおもいました。

初めて読んだ短編『デラウェイの窓』を読んだときに、本人のイメージと違ったので(デラウェイという写真家が本当にいるのかという話)の喪失感も読んでうまいなと思いました」

パク氏も「僕も『土の中の子供』を読んで、土の中で埋められた子供が自由になる部分で悲しく胸にじんときました。『何もかもゆううつな夜に』の韓国語版では僕が解説を書きました。これを読んで泣く人もいます。冗談です(笑)。もっと衝撃的だったのが大江健三郎賞を受賞した『掏摸(スリ)』でしたが、ミステリーを文学的に書き上げるのが感動でした」

二人が考える文学の未来

パク氏は現在大学で小説創作を教えているが、「韓国の文学の特徴は物語性を重視したり、最近は外国文学のジャンルを取り入れたりして、これからデビューする新人作家の力になると思います。韓国の学生は上手だが、ひきつける力が足りないと思います。うまくなるためには近道は無く、先輩作家の本を読んで、自分だけの作品を見つけていけば成功する作家になれると思います」と教授らしい意見を述べた。

中村氏も現在、自身がデビューのきっかけになった新潮新人賞の審査員を担当しているが、「まだ大きなインパクトを受けなくて…。うまいけど既存にとらわれた優等生的な文章が目立つ。(略)人間はみな同じだと思うんです。ただ特殊なバックグランドを持っていたほうがいいですね。表現のときに現れてきます。才能は後からついてくるものですから。あれ、えらそうに映ってない?ネット社会怖いですもんね、あとですげー怖いね(笑)」

最近韓国でも文学が売れていないということについては、

「むしろ最近の作家の作品が面白くなったとおもうが、・面白くないというわけでなく、文学以外の誘惑が多すぎるからではないかとおもう」(パク)

中村氏も「僕も昔から言われているけど、最近は本当にシビアになってしまっているみたいですね。小説のジャンルが脅かされてるのは小説家のせいだと思っています。何かのせいにすると終わりなので。」と何か秘めたメッセージを放った。

次回作についてパク氏は、

「ぜひ書きたいのは黒いストッキングの好きな男性の作品を書こうと思っています、必ず。」の回答に尽かさず「絶対書かないでしょう?」とつっこむ中村氏。

でも本当は企業秘密で言えないとのこと。

中村氏は現在4つの連載を進行中で、予定されている作品連載もあり、多忙な作家生活を送っているようだ。

「小説以外なにもしてないです。連載が続いていて忙しすぎで死んじゃうかもしれないです。」と会場を中村節でおおいに沸かせた。

昨今の日韓関係「ユニクロで感じる必要性」と「内面を探るには小説が最強」がカギ

最後に昨今の日韓関係について、どう思うかお二方にきいてみた。

パク氏は「今日来ているものは日本のユニクロ。問題がきっかけで日本製だから脱いだり破ったりできない。暖かく、形がよくて気に入っているから着ている。文学も同じで、自分が必要と思っているから読んだり書いているが、政治的な論理に振り回されることはない。」

中村氏も「意見が違うから『○○人はおかしい』と解釈は違うと常々思います。(外国人を見て)何処どこに住んでいる人とは思いますが、普段から『○○人』という考え方は持たないようにしています。意見が違うから嫌い、という短絡的な考え方はよくない。

メディアが怒りをあおることによって、関心の数字を上げている。メディアは外から映すものであれば、文学は内面を写している。そういう意味では小説は最強のカテゴリーだと思いますよ。パクさんの小説を読めば、韓国人の考えていることがよくわかるし、僕の小説を読めば、日本人が何を考えているかわかると思います。あ、でも日本人がみんなひねくれていると思われるのはいやだけど(笑)」

会場には韓国文学に初めて触れた来場者が多かったが、パク氏のたまに発するひょうきんなメッセージが会場を温かくし、韓国文学の世界をのぞけた一時間だった。

パク氏も中村氏もファンが近い距離感で楽しんでもらえてよかった様子で、多くのファンよりサインを求められ、会場を後にした。